
各病気による死亡率から流行時期をまとめたものを「季節病カレンダー」といいます。
気象研究所の籾山博士は、1960年前後にいくつか論文をまとめています。
その内容をご紹介したいと思います。
【全死亡率について】
大正から昭和初期にかけては、夏と冬に死亡率のピークがあり、年によって入れ替わっていました。
昭和5年ごろから冬が優位の状態が続くようになり、戦後は夏のピークがほとんどなくなりました。
【季節病カレンダーの変遷】
医療技術の進歩、生活環境の変化によって、季節病カレンダーも変遷を遂げています。
戦前は肺炎や胃腸炎などの感染症で亡くなる方が多くいました。
そのピークは胃腸炎が夏、肺炎が冬にありました。
脳卒中や心臓疾患、老衰は、夏と冬に二つのピークがありました。
今ではほとんど見られない脚気や、かなり少なくなった百日咳や結核による死亡も夏にピークがありました。
またガンによる死亡は夏〜秋にピークがありました。
<昭和初期>
それまでと大きな変化はありませんが、 心疾患や脳卒中、老衰の夏のピークがなくなりました。
<戦後>
昭和30年前後には、このカレンダーが大きく変わります。
まず、肺炎や胃腸炎、脚気による死亡が大きく減りました。
そして、夏にピークのあった、結核、脚気、百日咳が冬にピークを移し、昭和30年代に入ると、胃腸炎による死亡も冬に移行、
ほとんどの病気が冬にピークを迎えるようになりました。
例外は春のはしか、夏の赤痢、秋のガンだけです。
籾山博士の統計は、昭和30年ぐらいまでのデータが中心ですが、この研究を次いで行った調査でも、病気そのものがほとんど見られなくなったり、 ガンによる死亡率が高くなるなど、病気ごとの割合は変わりましたが、戦後の「冬季集中」パターンに大きな変化はありませんでした。
これらが、籾山博士のまとめた内容ですが、生活環境がさらに変わってきた現代では、死亡に季節性がなくなってきている所も出てきました。
そして、脚気など、現代ではほとんど見られなくなっている病気がある一方、スギ花粉症など、最近になって増えてきた病気もあります。
季節病カレンダーはこれからも変化していくのかもしれません。
参考文献
・M.Momiyama:High Winter Mortality of "Seasonal Diseases": Papers in Met.and Geophy.Japan,12,No.2,1960
・M.Momiyama&H.Kito:A Geographical Study of Seasonal Disease Calender Models by Period and Country:
Papers in Met.and Geophy.Japan,14,No.2
・田中正敏:疾病の季節性:地球環境 Vol.8 No.2
・田中他:1979年以降の新季節病のカレンダー:日本生気象学会誌 Vol.33,No.3